ここは、2024年7月に開業後、わずか 10 か月でミシュラン・セレクテッドに選ばれ、業界内外から高い評価を得ている名店です。

店を訪れる人々を惹きつけているのは、その肩書きだけではありません。味覚・視覚・嗅覚・聴覚・触覚 ─ 五感すべてが導かれ、心に旅を刻める食体験。他では味わえない唯一無二のひとときを過ごせることこそ、大きな魅力の源となっています。

SCAPARの核にあるのは、Sensescape と Each bite a journey という二つのコンセプトです。Sensescape とは、Senses（感覚）と Landscape（風景）を組み合わせた言葉。訪れる人々を日常の喧騒からそっと連れ出し、非日常へと【逃避】させる舞台装置（空間体験）を表しています。音や香りが風のように心を撫で、照明や器による陰影が情景に奥行きをもたらし、さらには会話と沈黙の間までもが、さながら一枚の絵となるような空間。コースメニューを通してフォーマルな中にも遊びが調和され、気づかぬうちに心が【解放】されていく客たちは、五感を使って旅をしているような感覚に包まれます。

一方、Each bite a journey というキーワードに込められているのは、一口ごとに感情を呼び起こす “小さな旅” への誘い。香りが記憶を揺さぶり、質感が感性に触れ、余韻が静かな旅路のように心に残る。そんな料理の数々を楽しめます。「Sea Game」や「豆乳プリン」に象徴される斬新なお皿、語られる素材のストーリー、料理が運ばれる間の呼吸、そして、客の一人ひとりに合わせて流れていく時間そのものも、ここでしか得られない至高のおもてなしの真髄です。

もちろん、演出だけにとどまらず、味への探究にも妥協はありません。例えば、「Sea Game」は、赤身のマグロを肉のように仕立た一皿。濃縮したラーメン出汁のソースが深紅の切り身に艶やかに絡み、口に含むと海と森が重なり合うような力強さが広がります。「豆乳プリンと柚子のジュレ」は、淡い乳白と透き通る黄金色が重なり、ひと口で爽やかな酸味とやわらかな甘みが溶け合い、地中海の光と日本の静けさを同時に感じられます。

こうした食の舞台を紡いでいるのが、シェフ桑原孝一氏です。カウンター越しに語られるシェフの言葉は深く繊細な詩のようであり、料理が提供されるテンポや間合いさえも特別な体験の一部として完成させれていきます。

日本の懐石が持つ静けさと、スペインの情熱的な食文化が共鳴し合うとき、「緊張と緩和」「静寂と香りの爆発」といった相反する感覚が一つの流れとして立ち上がります。そこまで計算され尽くされていることが、名店と評価される理由でもあります。

バルセロナで体験できる、食を超えた芸術。その舞台へとつづく扉が、あなたを待っています。